行政書士の民法 心裡留保、しんりりゅうほ (民法93条)

今日は、心裡留保について詳しく解説していきます。

心裡留保、しんりりゅうほ)
第93条 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。

簡単に事例を紹介すると、

甲「売るよ」(どうせ買えないだろう)→←乙「買います」

甲は、乙が貧乏学生なので、高価な壷を買うお金もないだろうと思いつつ、冗談で、乙に壷を売ると言った。
乙は、それを真に受けて、資金を調達してきて、買うといった。

この場合、甲の「売るよ」という意思表示をしていますが、心の中では、(どうせ買えないだろう)と思っているわけです。しかし、乙が甲の「売るよ」という意思表示を真に受けて、資金を調達してきた以上、売らないと言う訳にはいきませんよというのが上記の条文の前半の意味です。
しかし、乙が甲は冗談を言っていると知っていたときや、普段から甲は人をからかう癖があることを知っていた場合などは、甲の「売るよ」という意思表示は、無効にすることができるというのが、ただし以降の意味です。一般常識で考えても、妥当な結論ですよね。

さて、心裡留保の場合は、原則として、甲の「売るよ」という意思表示は有効になり、例外的に、乙が甲の真意を知りえた場合にのみ、無効にすることができるということですが、無効の主張は誰ができるのでしょうか?

甲の「売るよ」という意思表示が無効になると、得するのは、甲ですよね。
ですから、この場合は、甲自身が、甲の(どうせ買えないだろう)という真意を知りつつ、乙は買うと言ったということを立証しなければならないことになります。
このことを「甲に立証責任がある」と表現します。

では、乙から、心裡留保の無効を主張することはできるのでしょうか。
いったんは、乙が買うといったものの、後になって、甲の(どうせ買えないだろう)という真意を知り、それなら、買わないということができるのか?

心裡留保の規定の趣旨は、甲の(どうせ買えないだろう)という真意を知らずに、契約した乙を保護することにあるわけです。
乙が資金を調達してきた後になって、甲が「あれは、冗談だったんだ」と言って、乙を困らせるようなことをしてはいけないという趣旨です。
ですから、乙自身が、「それなら、あの話はなかったことにしよう」と主張するのは一向に構わないということになります。常識的に考えても妥当ですよね。

最後にもうひとつ問題となるのが、どの程度の契約に対して心裡留保の規定が適用されるのかという問題があります。

契約というのは、甲と乙の約束に対して、一定の法的拘束力を与えるものです。法的拘束力を与えるものである以上、ある程度しっかりした契約でなければならないわけです。
上記の設例の

甲「売るよ」(どうせ買えないだろう)→←乙「買います」

という、契約関係は、甲の真意はともかくとして、表面上は、有効に売買契約が成立しているわけです。しっかりした契約関係にあるわけですね。

しかし、われわれの日常生活の中では、いろいろな約束はするものの、それがすべて法的拘束力があるわけではありません。
例えば、恋人同士が「明日、デートに行こうね。」と約束したとして、それが法的な拘束力を持つということはないことは、常識的に考えてもわかると思います。

では、以下のような事例ではどうでしょうか。

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